たったひとりのお葬式

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厳寒の文字がピッタリの2月午前8時携帯が鳴る。
「搬送です」の言葉を聞くと気合を入れて布団を剥ぎシャワーを浴びるのが日課だがさすがに寒い。

車に乗り込むとハンドルが冷たく手が痛いドライアイスを取りに行き事務所に向かうと、千明はすでに到着し搬送準備をしています。

普通は病室か霊安室指定なのに今回は病院待合所だと聞き病院の玄関を入ると正面のソファーに初老で細身の女性が座って我々を見ると近寄ってきます。

「あんしんサポートさんですね?」
「はい、そうです」
「電話で伺った火葬支援パックで宜しいですか?」
「はい、お願いします」
「分りました。とりあえず自宅まで運びましょう」
「はい、お医者さんに言ってきます」

寝台車を霊安室横に移動し遺体を乗せ自宅に向かう

自宅の布団に安置、ドライアイス処置、末期の水、線香を供えたが他の家族はおらず全て一人なので安置が済むと確認してみます。

「他の家族はいらっしゃいますか?」
「いいえ。私だけです」

故人は義母で施設は長くご主人も痴呆で入院しており、パート仕事をする女性一人で生計を立てているのだと言う。

2人の病人を抱えもしもの時の費用はどうしようかと悩んでいたようです。

ある日新聞に掲載された記事を見て電話すれば助けて貰えるかもしれない。電話しなければと記事の切り抜きを財布に入れ持ち歩いてたようです。

小さく畳んだ記事を取り出して見せてくれました。

その後、死亡診断書の記入をして貰い、死亡時刻を見ると午前3時35分の文字を見つけて言います。

「あれ、電話は午前8時ですよね?この時間差は?」
「夜中じゃ悪いと思って病院に確認したら朝まで待ってくれると言われたから――、」

待合椅子で待ってた理由が分かりました。我々が到着するまで1人で5時間以上待たせて可哀そうなことをしました。

「ところで火葬した遺骨を入れる墓はあるの?」
「それが、お墓が無いのでどうしようかと思ってるんですよ。何かいい方法はありませんか?」

「なら4月始めで良ければ専用散骨場まで送迎付き1万円で合同散骨しますよ」
「えっ?1万円ですか??」

「前橋集合、散骨場まで送迎バス含めて1万円」
「それ是非参加させてください」

死亡診断書の記入が終わると翌朝午前11時火葬の予約が取れ我々は高崎市役所に走ると一旦事務所に戻り棺の準備をします。

その後再度自宅に伺い納棺して安置、翌朝午前10時に来る旨を伝えて戻りました。

翌朝は予定通り高崎市斎場に到着、喪主と我々3人で火葬炉に入るのを見送ると斎場担当者から90分の火葬時間と伝えられ一番奥の無料待合室に向かいます。

当時の斎場待合室はパーテーションで半分に区切られた部屋で双方の声が丸聞こえなのですが、部屋に着くと隣室にも葬家名が書いてあります。

この部屋に一人でいたら長くて寂しい時間になると思い無料のお茶を入れ3人で、あーだ、こーだと笑いながら色んな話しをして過ごしました。

90分後拾骨の準備が出来たアナウンスです。それを聞いて立ち上がる時、
「90分なんて、あっという間ですね」

何気なく言った言葉に『良かったぁ』と安堵です。拾骨は女性と僕で何度か拾い千明と交代して何度か拾っての拾骨でした。

帰りの車中
「あの記事を見つけて取っておいたから温かいお2人に出逢えて本当に良かったです」
と言ってくれました。

たった一人のお葬式、きっと父親の葬式もこんな感じだったかなと思うと個人的には誰にも気を遣わず送る葬式、これはこれで良い葬式だと思います。

また今回の葬式で『ちょっとした気遣いが寂しい思いをさせずに済むこともある』と教えられました。

葬儀屋は決められた流れで進めようとしますが、それは『作業』で仕事ではありせん。作業に利用者個々に適した+アルファが加わって『仕事』と呼べる。

これは葬儀屋だけでなくどんな仕事でも一緒、仕事のできる人、できない人の典型的な違いです。

葬儀屋は豪華さを競い、派手さを競い、或いは価格を競い、流れ作業の葬式をしますが我々の目的は『残る家族の生活が守れる葬式をする事』であり『家族が温かい心で送れる葬式をする事』です。

マニユアルで動く葬儀社では絶対に出来ない葬式。それがどんなに好評でも知るのはたった一人です。

ところが一人から伝わる高評価は倍々ゲームとなり、人は本当に感動すると黙っていられない生き物である事も教えられました。

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