「10」ストレッチャー練習

一銭も要らないお葬式
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霊柩車を動かすには予想以上に面倒な手続きと費用も掛かるらしい事は分かりましたが、具体的な内容は全く分かっていませんで早速ネットで検索すると代行料30万円とか50万円なんてのもあって、代行費用を見ただけで相当面倒であろう事が想定できます。

横浜で行われる筆記試験の合格は80点以上、登録免許税、車検、保険など全てを自分達で行えば、今回の車体価格を入れても100万円ほどで納まる試算でしたが、すでに車体磨き、バッテリー、タイヤ交換で10万円上乗せを覚悟、更に運送屋さんなので車庫、休憩仮眠室、立地条件などの条件クリアも必要です。

自動車の事は2人とも全く分からないので試験は時間のある千明に任せたのですが、しっかり勉強したようで1回で合格、車検費用を抑えるため自分で行うユーザー車検に挑戦、検査員の人に「初めてなので宜しくお願いします」と伝え僕が担当しました。

健康診断、運転適性検査、更にはアルコール検知器の購入、点呼用紙作成など霊柩車に必要なの? と思う事も多々あるけど決まりなので全て準備、年が明けた2月ようやく緑色の営業ナンバーを装着した霊柩車で一般車道を走り、事務所に戻るとご遺体を運ぶストレッチャーの練習です。

霊柩車からストレッチャーを引き出すと、畳まれていた足がバネで開いて自立、乗せる時はバネを止めを外して足を畳みながら乗せる仕様、建築現場にある足場のような印象の鉄パイプで安っぽいイメージでしたが、業界で圧倒的シャアの米国ファーノ社製は良くできています。

もっと驚いたのは下部の車体部分と上部のストレッチャーを合体させて使用するのですが、新品で購入すると70万円位、更に縦二分割させ身体の下で組み立てる事で身体への負担軽減できるスクープストレッチャーは25万円位、棺用ストレッチャーは90万円もするのです。

「1」上部をストレッチャーと呼び、下部をトランスポーターと呼び、上部を外して怪我人や死体を運べる
「2」縦半分二分割で腰を痛めた怪我人でも身体の下でジョイントすれば腰に負担を掛けず持ち上げられる。重いご遺体も同様です。
「3」棺専用のストレッチャー、警察署への死体引き取り、長距離搬送はは便利、当社は使用してますが他で見たことはない

米国ファーノ社製を新品で購入すると、
「1」は70万円くらい
「2」は25万円くらい
「3」は90万円くらい
国産品も含めもっと安い物もありますが、使ってみると、その差は歴然ですから、多分ファーノ社製を使用する葬儀屋が多いだろうと思います。但し、スクープの金属製は重すぎてプラ製以外は他社のほうが使い易いです。

ストレッチャー出し入れ練習

ストレッチャーは初めて触るので霊柩車からゆっくり引き出しながら作動構造を確認、続いて霊柩車に乗せる時もレバーを引くタイミングを確認しながら乗せるとシステムは理解できますから、何度か実践するとコツも分かったので千明に交代です。

霊柩車後部のハッチバックを上げ、ストレッチャーを引き出した瞬間「ガッシャーン!」千明の手元は足が出て高くなっていますが、故人の頭部側の脚部は畳まれたまま引き出されたのです。

千明「あれー???」
武井「おいおい、故人乗せてたら頭から落下だよ」
千明「ですよねぇ、おかしいなぁ、もう一度やってみまーす」
  再挑戦、、、しかし再び「ガッシャーン!」
武井「またかい、、」
千明「あれー?なんでだろ、、そーだゆっくりやれば良いんだ」
独りで納得したようにゆっくり引き出します。手前の足は無事でました。続いて頭部側をゆっくり引き出すと
「ガッシャーン!」、、武井「・・・・・・」
武井「もしかして、最後までレバーを握ってない?」
千明「はい、ちゃんと握ってます!」
武井「だからだよ・・・・アホ」

コントのような練習を何度も行い、ストレッチャーだけでなく安置、ドライアイスの効果的な当て方等々など様々なトレーニングを経て、東日本大震災の10日前2011年3月1日【5万円火葬支援パック】完成です。

意地でも葬儀屋と思われたくない

何も知らない「ど」素人が家族と葬式の打ち合わせ、誰が聞いてもあり得ない事をさせられた最悪な葬儀屋への依頼でしたが、考え方を変えれば素人に初回から本番実践させる葬儀屋など絶対に在りませんから、最低の葬儀屋を見せてくれた最高の反面教師とも言えます。

もし最初の葬式が質の高い葬儀屋さんへの依頼だったら『葬儀屋と思われる事だけは絶対に嫌だ』と思わなかったでしょうから、ここまで家族目線に拘り続ける事にならなかったでしょう。

周囲が葬儀屋でなく葬儀支援センターであると認識されるまでは、例え赤字になろうが、とにかく葬儀屋では絶対できない事をやり続けようと徹底してきたから本当の家族目線になれたのであって『絶対に嫌だ』の感情が無かったからもっと手前でブレーキが掛かってたはずです。

優先順位が見えてきた

当時は自宅安置で100~200名の葬式場が普通だっけど、次の目標はエレベーターの無い公営団地住民を筆頭に『低料金安置施設』と『20~30名までの小さな式場』であると見えてきました。

初めての葬式で学ぶべき事を知る

最悪に葬儀屋の作業を見て『ドライアイスの正確な当て方と有効時間『死後硬直と死体の変化』『使用する仏教系葬具』など学びはいくらでもある事と同時に、葬儀屋の人達が当然のように着ている黒の略礼服には疑問が湧き、どうして黒服を着るのか業界の人達に聞いてみました。

「故人と家族への礼儀」「尊厳」など分かったような分からんような回答ばかり、初めての葬式で市役所職員と間違われたのは黒の略礼服を着てたから? 我々の仕事は事務員でなく軽快に動き回れて、会葬者から葬儀会社の人と分かる恰好がベストでは?と思えたのです。

それから17年間スーツ・略礼服は1度も着ていませんが家族親族からクレームを言われた事は1度もなく、家族や会葬者もすぐに探せるので好評、但し靴・靴下・パンツ・上着類は全て黒で統一しており、同じパンツは数十本、ポロシャツも数十枚所有し色褪せたら廃棄しています。

3月1日、5万円火葬パック完成した翌日、突然「自宅で息子さん逝去」との電話が入りました。



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