「4」最悪な葬儀屋

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近くの個人葬儀屋さんで施行依頼を済ませると安心と一旦事務所に戻り初めての葬式をメモしようと筆記用具を準備して自宅前の道路で暫し待つ。

数十分後故人を乗せた軽自動車の寝台車が到着ご遺体を運ぶ手伝いで初めてストレッチャーの片側を持ったが大柄な故人だからか重い。

安置する部屋の布団まで運ぶと葬儀屋さんは一旦車に戻り紙で包んだドライアイスを持ってきて縁側で開とドライアイス6本を綿花で包んだ。

それが業界の常識かもしれないが事前に包んだ物を持ってきたほうが視覚的には良いと思った。

ドライアイスを身体の各所に当て掛布団を掛けると小さな机の上に、線香、香炉、ランプ、りん、を置くと家族が一人づつ線香を供える。

すると葬儀屋さんは「打合せが終わったら言ってください」と言ったかと思うと寝台車に乗って帰った。

『えーっ、打合せは俺らがするの??』葬式の打合せなんてしたことねぇし、と心の中で叫んでも言葉には出せず覚悟を決めます。

座卓を囲んで座ると葬式の打合せ、お金が無いと聞かされ勧めたのは火葬だけのお葬式『直葬』です。

死亡届出の記入をして火葬予約をしている所へ故人の兄弟でしょうか叔父さんと呼ばれる方が来ました。

直葬にしたと家族が話すと、
「俺が費用は出すから、葬式の体裁だけでもしろよ」

この一言で一般葬に決まりましたが葬式の知識はありませんから、葬式を思い出しながらの打合せです。

葬儀屋さんが一通りのパンフレットを置いてったので、料理は一番安い弁当にしたり、香典返礼品は孫娘の旦那が贈答品屋勤務と分り持込して貰います。

そのうちに親戚の人達が集まってこられ打合せし難い状況となったので叔父さんに言います。

「ところで菩提寺の布施はどのくらいですか?」
「確か45万円だったと思う」
「この時間を利用してお布施交渉に行きませんか?」
「お布施の交渉ができるかね?」
「余裕は無いから宗教者なら引いてくれるでしょ」

知らないとは怖いもので宗教者なら余裕が無ければ値引きは当然と思い込んでたのが幸いし45万円の布施を30万円値引きの15万円まで粘りました。

自宅に戻ると親戚で座る場所もなく打合せは少し時間をおいてしましょうと、一旦事務所に戻って葬儀社勤務8年の千明が葬式を思い出します。

必要なことをパソコンで打ち出すと夜10時に電話、ちょうど親戚が帰った所と言われ再度打合せに向かい全ての打合せが完了した頃は日付が替わってました。

葬家の家を出るとどしゃぶりの雨――、急いで待っているであろう葬儀屋さんに連絡すると組合の飲み会で伊香保温泉にいるから明日前橋に戻ったら内容は聞きますと言われる。

仕方なく事務所に戻り見れば分かるよう打合せ内容をまとめ終えたのは夜も明け始める午前4時、どしゃぶりの中葬儀屋の郵便受けに投函したのです。

ドライアイスは包まず持ってくるし、安置した途端帰るし、打合せは任せて飲み会、葬儀業界の適当さに驚きましたが最悪の葬儀屋だったと痛感する葬式の幕が開けたのです。

葬式前日、逝去翌日は午後から湯かん納棺の儀です。

何処に座って良いか分らず布団の故人を立って囲む後方で待つと線香具など片づけた葬儀屋さんが突然

「只今より、湯かん納棺の儀を始めます。合掌!」
その場にいた全員が慌てて合掌すると、すぐさま
「なおれ!!」
余りに唐突な号令に、お前は軍隊長か! と心の中で突っ込みますが言葉に出来ません。

これで座るのかと思っていると、
「ちょっと待ってください」と葬儀屋は外にいく。

葬儀屋の指示に従いキビキビ動いてる人がいますが、葬儀屋のスタッフか息子さんでしょうか、『こんな親だと子供は出来が良くなるのかな』

そんな風に思いながら親子の動きの違いを眺めてると2人で棺を持ってきて故人の横に置きます。

『邪魔じゃねぇの? 先に棺に入れるのかな??』

集まった人達でシーツに使用してる搬送シートの取っ手を持って納棺、息子さんが棺の中を整えていると親父は布の切れ端のような物を出して言います。

「近しい方から順にどうぞ」
言われた家族は布を受け取りますが、どうして良いか分らず立っていると、
「それは手の辺に置いてください」
「足の辺に置いてください」
「〇〇の辺に置いてください」

全て『辺に置いてください』で身体の上に白布の切れっ端が置かれ最後に白い着物を全員が掛けると上から棺用の布団を掛けます。

「千明、あの白い布はなんだ?」
「安っぽいけど多分、白装束だと思います」
などと小声で話していると
「以上で湯かん納棺終了です。合掌!なおれ!」 
「皆さんで線香を供えてください」

家族が線香を供える間、冷房の無い室内は暑く外の風に当たろうと外に出ます。

「納棺はしたけど、湯かんってしたの?」
「いえ、浄化綿で手足を拭く事ですからしてません」

と話してると息子さんが来て隣に立ちました。
「あ、始めまして、息子さんですか?」

「いえ違います。私はスタッフの派遣をしてますが今日は誰もスタッフがおらず来ました」

「あ、派遣会社の社長さんでしたか失礼しました」
「いえいえ、とんでもありません」
と額の汗を拭きながら笑って名刺を渡されました。
『だよなぁ、あの親にして、この子あらずだわ

翌日は前橋斎場での葬式、言われた時間に到着し手伝える事があったと思ってました。昨日の派遣会社のスタッフであろう男性がキビキビと動き回っています。

葬儀屋の社長は何処にいるかと探す――、いました。会葬者出口にある灰皿の前で知り合いの葬儀屋さんらしき人とタバコを吸いながら談笑してます。

火葬中に食事する待合室に行くと葬家の隣保班の人達がテーブルを拭いたり座布団を並べたりしてましたが我々に気づいた一人が来て
「市役所の方は休んでてください」

我々が何者か説明すると、
「あのー、うちの隣保はお茶入れしませんが、誰かいらっしゃいますか?」
「はい分かりました。葬儀屋さんに伝えます」

式場に行くと相変わらずタバコを吸って話してます。

「すみません。ここの隣保はお茶入れしないそうですから誰か手配してください」すると、
「あ、それ我々の仕事じゃないですよ」

僕が見てる限り仕事は全くせず派遣スタッフに任せてずっとタバコわ吸ってるだけ、少しカチンと来てた事もあってこの一言でプチッと軽く切れます。

「我々の仕事じゃねぇ!?おい、いい加減にしろよ。誰の仕事かが問題じゃねぇだろ」

「誰かがしなきゃなんだから葬式施行受けた以上は滞りなく進行してナンボだろうが」
「タバコ吸ってるだけの自分がやりゃあ良いだろ!」

一緒に話してた人はバツが悪そうにその場を離れ葬儀屋の社長はうつむいてるので当てに成りません。

千明にお茶入れするよう指示を出すと顔を見てるだけで腹が立つので待合室に移動すると
「代表が怒ってるのを誰か見てたようで自分達がしますからって言ってくれました」

全てがこんな調子でしたが、何とか葬式は終了、翌日挨拶に来た葬儀屋の社長の顔をみると一言、
「やる気がねぇなら最初受けるなっ!」
「やる気はありすよぉ・・・」

この葬式は後日談があって葬式が済んで何か月も経ってからうちの奥さんから言われます。

「〇〇さんの葬式なんだけどさ」
「ん、あー6月のか」
「うん最近になって私も分った事で、ご主人には言わないでくれって言われたけど、どう考えても納得できないから言うね」

「葬式のあと集金に来た葬儀屋が、あんしんサポートに紹介料払うからくれって言ったらしい」
「はぁ?なにそれ、自分の利益から払った当然だろ」
「でしょ。私もそう思ったから話したんだけどさ」

紹介料とは自社利益から出すもので、依頼者から取るなどあり得ません。この葬儀屋は紹介料以前に仕事に対する姿勢に問題があり過ぎて最初で最後の付き合いとなりました。

この話しを奥さんから聞いたのは数か月後でしたから、さすがにクレームを言う時期は過ぎてました。

しかし反面教師として最高の葬儀屋で『葬式の内容と料金は葬儀社毎に違う』と分り『紹介できる葬儀社は決して多くない』ことも分りました。

このあとも紹介できる葬儀屋探しは続き最終的には葬儀屋は紹介できないと判断する最初のきっかけのと言えるでしょう。つづく